コーチングコラム

2008年02月の記事一覧
コーチングの基本スキル-聴く
2008年2月22日

コーチングで最も重要で基本となるスキルが「聴く」です。「聴く」ことにより部下の中にあるものを十分に引き出すことができれば、能力開発や成長に非常に役立ちます。逆に、「聴く」ことをおろそかにすると、部下は育たなくなるのです。


コーチングと言えば、その最も重要で基本となるスキルとして「聴く」を思い浮かべる人が多いでしょう。日常生活において、「聴く」ことは、健常者であれば特段の努力をせずに行なっていることです。しかし、上手に「話す」のが難しいのと同様、しっかりと「聴く」ことも、決して容易ではないのです。


コーチングでは、相手の中にあるものをいかに引き出すかが肝要です。相手方としては、しっかりと聴いてもらえることで、さらに話そうという気持ちが生まれてきます。逆に、聴いてもらえないのなら、話す気持ちも失せます。話す気持ちが失われれば、当然、引き出せるはずのものも引き出せなくなってしまいます。コーチ側の「聴く」スキルのあり方が、相手方からどれだけ引き出せるかを大きく左右するのです。


仕事や日常生活において、「真剣に集中して聴いてもらえる」という経験は、意外と少ないのではないでしょうか。一方、そのように聴いてもらえることは、嬉しく、また快感すら伴うでしょう。また、自分の話をしっかりと聴いてくれる人に対しては、好感を抱き、心を開いて話をしようという気にもなってきます。


そのような「聴く」スキルは、ある程度、意識しないと身につかないものでもあります。なぜなら、日本語で「キク」といっても、「聞く」「訊く」「聴く」といった漢字があてられ、それぞれ意味合いが異なるからです。


「聞く」は、単純に音が耳に入るといった意味での「キク」となります。雑音や騒音が聞こえてくるような状態で、明らかにコーチングで言うところの「聴く」とは異なります。


「キク」には「訊く」という漢字があてられることもありますが、この場合は、「尋ねる」といった意味合いを持ちます。自分に必要な情報を得るために「訊く」のです。コーチングにおける「聴く」は、自分のためではなく、相手のために行なう(相手の中にあるものを引き出すために行なう)ので、これもまた異なります。


コーチングの「聴く」は、字の中に含まれているように、「心」から集中して聴くことです。相手の話の内容に心からの関心・興味を示し、意味を深く理解しながら行なうような「聴く」なのです。相手の気持ちになりきり、相手と同じベンチに座り、同じ景色を観ているような感覚が持てるようであれば、それはしっかりと「聴く」ことができていると言えるでしょう。


それができるためには、相手の言葉を先入観で理解したり、自分勝手な解釈をしないように心がけることが必要です。心をニュートラルな状態にしておくことです。相手の言うことを評価したり批判したりする気持ちを抱いていると、しっかりと「聴く」ことができなくなります。


また、相手の言葉以外のものも聴き取る努力も必要です。相手がどのような感情を持っているのか、本心で話しているのか、心をニュートラルな状態にして聴けば、言葉の裏にあるものをも聴き取ることができるのです。


「聴く」ことそのものは、特に聴き手のアクションを伴うものではないのですが、いくつかの点に注意しながら「聴く」ことにより、相手に「しっかりと聴いている」というメッセージを伝えることはできます。


例えば、相づちを打つことは、聴いていることの意思表示となります。試しに、相づちを打たない相手と話をしてみるとよいでしょう。非常に話づらいし、相手がちゃんと聴いているのかどうか、不安になります。また、相手の言葉を繰り返して言ってみるのも、言ったことが伝わっていることを示すサインとなるので効果的です。


「それで?」「それから?」といった接続詞を使うのも、確かに聴いていることを伝えることとなります。コーチングで「聴く」目的は、相手の中にあるものを引き出すことであることを思い起こして下さい。相手にどんどん話させることができれば、コーチングが機能していると考えてよいでしょう。


時には「沈黙する」ことも有効です。例えば部下に何か質問を投げかけたら、答えが返ってくるまで「沈黙」します。すなわち、しっかりと「聴く」意思を示すのです。時々、部下から答えが出る前に、待ちきれない上司が答えを言ってしまうことがありますが、コーチングとしては非常にマズいことです。これでは部下の可能性の芽を摘み取ることになりますし、黙っていれば上司が自分で答えてくれるなら、部下は自分で考えようとする意欲をなくしてしまいます。


上司としてのあなたは、部下の言葉にしっかりと耳を傾けて「聴く」ことをしているでしょうか。「聴く」ことをそこそこに、上司としての意見ばかりぶつけていては、部下は育ちませんし、自発性ややる気をも奪ってしまうことになるのです。

コーチングの基本スキル-認める
2008年2月14日

コーチングはコミュニケーションのスキルであり、言葉のテクニックと受け止められがちですが、「認める」スキルは、言葉を口に出す以前の気持ちや姿勢がベースとなります。まずは相手を「認める」ことができていなければ、コーチングは全く機能しません。


今回からは、コーチングの基本スキルを一つずつ解説していきます。まず最初は「認める」というスキルです。コーチングで言うところの「認める」とは、文字通り相手の存在や行動等を認めることで、相手のあるがままの状態を、事実としてそのまま受け止めることです。それに対する評価は行ないません。


例えば、あなたが家庭を持つ夫だとしましょう。ある日、奥さんが美容院に行き、髪をカットしてきたとします。その際、「髪をカットしてきたんだね」と伝えるのは、「認める」ことになります。美容院に行き、髪をカットした事実を、そのまま受け止めているわけです。ヘアスタイルが似合うかどうかは、言いません。それは「評価」にあたるからです。もちろん、似合うと誉めたければ誉めてもよいでしょう。


しかしそれ以前に、髪をカットしたこと自体、気づかない夫も多いのです。奥さんとしては、おおいに不満なはずです。自分の存在が認められていないと感じるからです。これでは信頼関係が強まるはずもなく、コーチングとは対極をなすコミュニケーションのあり方だと言えるでしょう。


会社の中で部下と接する際も、相手を「認める」ことを、まずはする必要があります。誉めることや叱ることは、その次の段階の話となります。相手のあるがままの状態を見て、それを相手に伝えることにより、「この人はしっかりと私を見てくれている」と感じてもらうことができるのです。そこに二人の間の安心感や信頼感が生まれます。


「認める」スキルを使って部下と接することで、部下の行なった良いことも悪いこともしっかりと受け止める、包容力のある上司になることができます。人は自分をしっかりと認めてくれる相手に対して信頼感を抱きます。そしてさらに、何でも話そうという気にもなります。コーチングの仕組みからすれば、何でも話せる雰囲気をつくり、実際にどんどん話させることで、様々なアイデアが浮かんだり、気づきが生まれたり、行動へのモチベーションが高まったりします。


逆に、自分を認めることをしない相手に対しては、心を閉ざすこととなるでしょう。髪をカットしたことに気づかない夫に対して、愛想を尽かす奥さんと同じことです。コミュニケーションがますます悪化していくことは、容易に想像できるでしょう。


この「認める」スキルを駆使するには、相手の存在そのものに敬意を払う姿勢が求められます。そこには、相手に対する信頼も含まれます。そして、心をニュートラルにして相手の存在や行動を受け入れる度量も必要でしょう。前回、コーチングをするには「自己基盤」が重要だと述べましたが、まさにそれが試されるスキルなのです。


では、具体的には、どのように「認める」ことをすればよいのでしょうか。まず、相手を「認める」際に、よく使われるフレーズがありますので、それらを使ってみることです。「うん、そうだね」「君はそう考えているんだね」「○○をしてくれたんだね」といった表現です。また、言葉以外でも、笑顔や頷きなどで相手を認めていることを伝えることができます。


相手と同じ言葉を繰り返すというのも、効果的に「認める」やり方です。「最近、ちょっと疲れ気味なんです」と部下が言ってきたとしたら、「最近、ちょっと疲れ気味なんだね」という具合です。このような場合、例えば「毎晩、夜遅くまで飲み歩いているんじゃないか?」とか「若いんだから、そんなことじゃだらしないぞ」といった対応がよくみられます。


信頼関係が既にどこまで出来ているかにもよりますが、部下としては、自分が受け入れられていないという気持ちを抱くことにもなりかねません。そこまでネガティブに受け止めないにしても、あまりプラスに働くことはないでしょう。しかし、「最近、ちょっと疲れ気味なんだね」と、同じ言葉を繰り返すことをしてみたらどうでしょうか。自分自身をしっかりと受け止めてもらえた感覚が生まれ、驚きの気持ちすら抱き、上司を見る目も変わることでしょう。


会話はキャッチボールに、よくたとえられます。相手が投げたボールはいったん、しっかりと受け止めることが必要なのです。その「しっかりと受け止める」行為こそが、「認める」なのです。受け止めることもそこそこに、場合によってはバットで打ち返してしまうような対応が続けば、部下は嫌気がさし、上司とのコミュニケーションを回避するようになることすらあります。


最初は少々わざとらしくなるかも知れませんが、部下からの言葉に対して、すぐに何らかの答えを言うのではなく、いったん、同じ言葉を繰り返してみるとよいでしょう。二人の間の雰囲気は、きっと従来とは変わった暖かいものとなるはずです。

コーチングの5つの基本スキルとは?
2008年2月06日

対象者のパフォーマンスの向上を目的とするコーチングでは、さまざまなスキルを使って、「セッション」を組み立てていきます。コーチングスキルは「道具」ですから、それを上手く使いこなしていくためには、しっかりと「目的」を踏まえて使うことが大切です。

今までの回で、コーチングの効用やセッションの構造について説明してきましたが、セッションそのものは、コーチングの各種スキルを使い組み立てていくことになります。今回は、コーチングセッションを運営するための基本スキルについて解説していきます。


まず、セッションを効果的なものとするためには、次のポイントをしっかりと押さえる必要があります。


・クライアントが安心して話せるようにする
・クライアントからたくさんのものを引き出す
・クライアントの行動を促す


上記をしっかりと実現するためには、GCS(銀座コーチングスクール)では、次の5つの基本スキルを教えています。


(1)認める
(2)聴く
(3)質問する
(4)フィードバックする
(5)リクエストする


たった5つと、非常にシンプルですが、それぞれ奥が深いものがあります。これらを十分に使いこなすことで、コーチングのほとんどの場面に対応が可能となります。それぞれのスキルの意味と目的は、次のとおりです(スキルごとの詳しい説明は、次回以降に解説します)。


(1)認める


「相手の存在をしっかりと認める」ことです。このスキルを使うことで、安心して話せる環境づくりが図られます。


(2)聴く


「真剣に集中して聴いてもらえる」という経験は、意外とありそうで、ないものです。これもまた、安心して話せる環境づくりにつながります。聴かれることで、人はさらにどんどん話していきたくなります。その結果、クライアントの中にあるものが、どんどん引き出されていくのです。


(3)質問する


「聴く」の引き出す効果をもっと高めるために、ポイント毎に質問をしていきます。話が途切れたとしても、質問を投げかけることで、さらにどんどん引き出していくことが可能となります。クライアントの視点を変えるような質問をすれば、新たな「気づき」を起こすことにもつながります。


(4)フィードバックする


自分のことを客観的に見るのは、なかなか難しいものです。それでコーチは時々、クライアントがどう見えるか、フィードバックをします。「気づき」を引き出すという点で、強力な効果を発揮します。


(5)リクエストする


「○○してください!」といった言い回しで、ポーンとクライアントの背中を押すのがリクエストです。クライアントを大きく飛躍させるきっかけにもなります。


なお、「引き出す」という表現を何度も使ってきましたが、この言葉は、コーチングの世界ではよく使われるものです。クライアントの中にあるもの、時にはクライアント本人が忘れているようなことを引き出すのが、コーチの存在価値でもあるのです。


さて、これらの5つスキルを使うにあたって注意すべき点があります。それは、スキルは口先だけのテクニックではないということであり、それぞれの目的を踏まえて効果的に使わなければ、上手く機能しないのです。


例えば、「クライアントが安心して話せるようにする」には、やはりお互いの信頼関係がベースに必要となります。それがなければ、どのようなスキルを使っても、上滑りするだけとなるのです。


また、「クライアントからたくさんのものを引き出す」には、コーチのクライアントとの関わり方が非常に大切となります。「引き出す」側であるコーチは、クライアントの中に「必ず引き出されるものがある!」と信じていないと、引き出すことはできません。その気持ちのことを「コーチングマインド」と呼びます。


「クライアントの行動を促す」上でも、「きっと出来る!」という気持ちがコーチ側にないと、腰砕けになってしまいます。さらに、コーチが自ら、行動を起こした「成功体験」があることも必要となります。


コーチングのセッションは、まさに真剣勝負、魂と魂のぶつかり合い、といった様相を呈します。中途半端な駆け引きや、生半可な言葉では、本気で行動するには至りません。そのようなセッションを運営するには、コーチの「自己基盤」がしっかりしていることが不可欠です。


コーチングセッションは、各種スキルを組み合わせて用いることで構成しますが、スキルを下支えする「信頼関係」「コーチングマインド」「自己基盤」を伴ってはじめて、コーチングが機能する、と考えるべきなのです。

 

コーチングセッションの全体構造を理解しよう
2008年2月01日

対象者のパフォーマンスの向上を目的とするコーチングは、コーチとその対象者(クライアント)との「セッション」と呼ばれる一連の対話によって成り立っています。「セッション」の構造を理解して、それを意識して対話を組み立ててみましょう。


「聴く」と「質問する」の基本スキルから構成されるコーチングではありますが、漫然とそれらを行なっても単なる雑談に毛の生えた程度のことにしかなりません。


コーチングとは対象者の行動を促し、目標を達成するためのコミュニケーションスキルです。個々の言葉遣い以外に、コーチング・セッションの全体をどのように組み立てていくかによって、それができるかできないかが左右されます。


コーチング・セッションは、まずは課題を抽出し、次にどうしたいのか、どうなりたいのかというゴールのイメージを描かせます。そして、どうすればそれが可能か、どのような選択肢があるかを挙げさせた上で、どれが適切かを選んで、次のセッションまでにどのような行動をするかを決意させます。


最初の2つのステップについては、表裏一体の関係にあることが多く、状況に応じて順番が入れ替わる場合もあります。以下、ステップごとに解説していきます。


1.課題の抽出

コーチング・セッションを始めるにあたっては、クライアントがその時点で最も問題だと感じている事柄を取り上げるのが比較的とっつきやすいでしょう。


このステップでは、何が本当の課題なのかを突き止めることに主眼を置いて、「聴く」と「質問する」のスキルを使いこなし、クライアントの頭や心の中にあるものを引き出していくことが重要です。


質問の例としては、「今の仕事で最も問題だと感じていることは何ですか?」や「現在抱えている最大の課題は何ですか?」と直截に切り出したり、「最近、調子はどう?」といった具合に尋ねることもできます。


2.ゴールの設定

このステップでは、クライアントがどのような状況を望むのかを明らかにします。特に、明確なイメージを描かせることが大切です。「どうなれば問題が解決したことになりますか?」といった質問は必須でしょう。


この場合も、「具体的にはどのようなことになりますか?」といった質問を重ねていき、クライアントの描くイメージの明確化を助けていきます。ゴール設定の際は、その大きさや難易度についても留意する必要があります。


大きなゴールを踏まえた上で、セッションごとに小さなゴールを設定させることが有効です。小さなゴールを着実に達成するのをサポートすることが本人のやる気と自信を高めていきます。


3.プロセスの設定


現状の課題とゴールが明確になれば、次はゴールに到達するためのプロセスを考えることになります。1回のセッションでは小さなゴールに到達する方法を考えさせることになります。


「そうなるためには、まず何をすることができますか?」「それを達成するにはどのような方法がありますか?」といった質問を使うことができます。ここでのポイントは選択肢を挙げさせることです。つまり、一つの方法ではなく複数の方法を考えさせます。


「他の方法では何が考えられますか?」という質問で、クライアントに考えることを促します。そして、各々の選択肢を実行した場合、何が起こるか、どのような結果になりそうかを考えさせます。「それを行うと、どうなると思いますか?」「どれが最も効果があると思いますか?」といった質問で吟味させていきます。


ここで「気づき」が起こるケースも多いのです。


4.行動への押し出し

何をすべきかが決まれば、いよいよ具体的な行動を起こすことになります。「では、いつそれをやりますか?」と質問し、クライアントが主体的に行動を決めるようにします。このステップで留意しなければならないのは、クライアントを励まし勇気づけることです。


もしクライアントが迷っているようでしたら、「○○日までにやるのですね?」と決断を促す必要があります。


以上がコーチング・セッションの全体構造のあらましで、基本です。現実のセッションはもっと色々なバリエーションがあって、必ずしもこのような型にはめなくてはならないというわけではありません。


したがって、1回のセッションで上記のステップを全てカバーできなくても良いのです。真に主体的な行動を促さなくてはコーチングの意味がないので、無理にカバーしようとすることはコーチングに対する幻滅を招いて、かえって有害なのです。


セッションは、クライアントが答えを必ず持っていると信じて行なうのが基本です。あなたの部下を信じ、上記のステップを踏んでセッションを行なってみて下さい。


(文責:森英樹)