コーチングコラム

2008年08月の記事一覧
コーチング力は人間力を高める
2008年8月22日

ビジネスにおいても、一般的な社会生活や家庭生活においても、コミュニケーション能力の巧拙で、それらから得られる成果や満足度が大きく変わってきます。そのため、「人生の質はコミュニケーションの質で決まる」とさえ言われます。コーチングの本質がコミュニケーションスキルであることを踏まえると、コーチングスキルの修得は、人生の質を高めていくことにつながるはずです。


実際にコーチングを学び、修得した人たちの多くは、「コーチングとの出会いにより、人生が変わった」とさえ言います。もしコーチングが単純な言葉のテクニックであれば、それはあまりにも大げさな表現だと言えるでしょう。コーチングの何が、そこまで人を魅了するのでしょうか。


まず、コーチングが機能する前提が、互いの信頼関係だということを思い起こしてください。それはコミュニケーションが機能する前提でもあります。そのため、コーチングスキルの重要な部分は、特に信頼関係づくりのためのものとなっています。相手を認め、相手の言葉に耳を傾けるといったスキルは、まさにそのためのものです。相手との間に安心感を築き、何でも話せる雰囲気を醸成していく。そのような信頼関係づくりは、単純に「部下育成の手法の一つ」といった枠を、はるかに超えるものであり、人間としての根源的な部分に強くアピールするのが魅力なのです。


相手を「認める」「聴く」といったスキルは、簡単なように見えるかも知れませんが、なかなかできない人が多いです。言葉づかいの問題以上に、人間としての度量の大きさが問われるスキルだからです。それらができるようになれば、自らが人間として成長していることを実感できるでしょう。それもまた、コーチングを学ぶ魅力です。


いわば「人間力」を鍛えてくれるのがコーチングであり、それは「認める」「聴く」以外のスキルについても同様です。


たとえば「質問する」というスキル。これは、相手の中にあるものを引き出すための技術です。効果的に行なうには、相手が必ず答えを持っていると信じることが必要であり、相手がどのように答えようとも動じない姿勢も求められます。


この姿勢が崩れると、質問がYes/Noで答えられるクローズドクエスチョンばかりを使うことになり、相手の中にあるものを効果的に引き出すことができなくなります。Yes/Noで答えられない質問であるオープンクエスチョンを使う方が、はるかに多くのものを相手から引き出すことができるのですが、なかなかそれができないのです。決して口癖の問題ではなく、相手からの予期せぬ答えを避けようとする自己防衛心が、オープンクエスチョンではなく、クローズドクエスチョンを使わせます。まさに、人間としての度量が問わる場面だと言えるでしょう。


「認める」「聴く」そして「質問する」といったスキルを中心にするコーチングは、どちらかと言えば「受け身」的なコミュニケーションだと考えられがちです。しかし、コーチは常に「受け身」を強いられるわけではありません。


というのは、相手との信頼関係を築くには、コーチが自分自身のことを語ることが、実は非常に重要だからです。考えてみてください。誰かと対話をする際、自分が根掘り葉掘り質問を投げかけられている一方、相手が相手自身のことを全く話さないとしたら、どうでしょうか。話してくれなければ、相手を理解することもできません。理解できない相手を心から信頼することもまた、できないのです。


コーチングでは、自分自身のことを語るのを「自己開示」と呼びます。特に、自分自身の経験談を語ることは、コーチングにおいて、相手の「気づき」や「行動」を促すのに非常に効果的です。自らの経験談ほど、説得力のある話はないからです。優れたコーチは、これをセッションの中で効果的に使います。そのために、自分自身の経験を、常にたな卸しして、いつでも話せるように準備しておくほどです。


自分自身の経験や、自分が感じていることを的確に話すことは、自分自身をよく理解していなければできません。そして自分自身をよく知らずして、自己の成長はありません。また、「自己開示」することは「自己解放」でもあり、それがコーチングに魅力を感じる大きな要因となっているのです。


コーチングが上達するには、人間としての度量をも広げていかなければなりません。一方、特に経営者をはじめとするビジネスパースンにとっては、ビジネススキル以上に、人間的魅力が問われます。つまり、共通して求められるのが「人間力」なのです。それを向上させるのに、コーチングを学ぶことは、非常に有益なのです。

具体的行動を設定する
2008年8月01日

成果は行動によってもたらされます。成果を上げ、目標を達成するためには、いかに具体的行動を促すかがポイントとなります。一方的な命令ではなく、共感を踏まえた自発的かつ具体的行動を促すことで、部下のモチベーションも高まるのです。


コーチングセッションの中で、目標設定し、現状を把握したら、その目標を達成するためにどうするかを考えていくことになります。目標を達成するには「行動」しなければなりません。従って、どのような行動をするのか、その内容と手順を具体的に決めることが必要となります。


既にクライアントの頭の中には目標が描かれているので、まずはそれを達成するためのステップを考えていきます。同じ「山の頂上」でも、登るルートはいくつもあるのです。


これを考えるにあたっては、質問のスキルを使い、クライアントから引き出していくことになります。「その目標を達成するとしたら、何をいつ頃までに行なえばよいと思いますか?」のような質問が考えられます。


相手からアイデアを引き出すには、さまざまな可能性の選択肢を挙げさせるようにした方がよいでしょう。最初や二番目くらいに出てくるアイデアは、常日頃、既に頭の中にあるものであることが多いのです。「他には?」といった質問で、頭の奥深くに眠っているようなアイデアまで引き出すことができれば、コーチングの価値は一層、高まります。


また、コーチングセッションでアイデアを生み出していく際は、コーチと共にブレーンストーミングを行なうのもよいでしょう。コーチは「教えない」のが原則ですが、さらに重要なのは、相手の中にあるものを引き出すことです。


状況によっては、「提案」をしてもよいし、それがクライアントの新たなアイデアを引き出すきっかけともなります。コーチとクライアントとの信頼関係が高まり、「教える者」と「教わる者」の関係ではなく、一体となってブレーンストーミングを行なうことができたら、それは理想のセッションだとも言えます。


アイデアを挙げるだけ挙げたら、次はその中から選択をする必要があります。どれが良さそうかは、直感的に決めてもよいでしょう。余計なことをあれこれ考えて行動が阻害されるよりも、早く行動を起こした方がよいからです。


直感のみに完全に依存するのではなく、じっくり「考える」ことが必要な場合は、一つ一つのアイデア(選択肢)について、その選択肢を選んだら、将来、何が起こるかを相手に考えてもらうようにします。


「もしそれを選んだとしたら、どうなると思いますか?」といった質問が使えるでしょう。最も良い結果が得られるであろうものを、選択すればよいのです。


とるべき選択肢が決まれば、目標達成へ向けてのおおまかな進路は明らかになります。次は、さらに具体的な行動へと落とし込んでいく作業に取り組みます。「具体的な行動」とは、それを文章で見て、何をやればよいのかが、すぐにわかるような行動のことです。


例えば、単に「英語の勉強をする」といった内容では、現実問題として、なかなか行動に結びつかないでしょう。「英語で日記をつける」、「毎日英単語を10個覚える」、といった内容になると、具体的な行動につながりやすくなります。


優秀なコーチは、具体的な行動を決めていく上での、いわば「突っ込み」が非常に上手いのです。クライアントが「英語で日記をつける」ことを決めたとすると、「いつ書きましょうか?」「どこで書きましょうか?」「どんな日記帳にしましょうか?」「どうやって書きますか? ワープロにしましょうか? それとも手書きにしましょうか?」・・といった具合に、次から次へと質問を繰り出していきます。基本的には、いわゆる「5W1H」の質問を使います。


これが上手出来るようになるコツは、クライアントがその行動を行なう際のイメージを、コーチ自身も頭の中で描いていくことです。そして、不明な点を、クライアントへの質問として投げかけるのです。


クライアントも当然、質問への回答を考えることで、頭の中にイメージが描かれます。そうすることで、コーチとクライアントの持つイメージが共有され、一体感が醸成され、そして行動へのモチベーションも高まります。コーチという存在に対する信頼感が築かれるからです。


質問を繰り出す際に注意しなければならないのは、それが「詰問」にならないようにすることです。「いつやりますか?」「どこでやりますか?」「どうやってやりますか?」と、立て続けに質問されることは、かなりの「圧迫」になります。かと言って、それをあいまいにしないのが、コーチの役目であるのです。


「圧迫」になるのは、コーチとクライントが、質問者(尋問者)と回答者との対立関係になるからです。コーチとクライアントとの関係は、「対立」ではなく「協業」「共感」であって、コーチはクライアントの「伴走者」なのです。


部下の具体的な行動を促していくのに「5W1H」の質問を、「尋問者」としてではなく「伴走者」として行ってみて欲しいと思います。部下との間の一体感が醸成されれば、部下の目が輝き、行動も変わってくるはずです。