コーチングコラム

2008年09月の記事一覧
セッションの戦略とコーチングマインド
2008年9月12日

 コーチングセッションを効果的に機能させるには、その運営にあたっての「戦略」をしっかりと持つ必要があります。この「戦略」は、相手からより多くのものを引き出し、ゴール達成へ向けての行動をしやすくなるようにするためのセッションの運営方針や方向性のことを指します。

 コーチングは、相手の話に耳を傾け、すべての答えは本人が持っているという考え方に立ち、相手の中にあるものを引き出していくコミュニケーションスキルです。したがって、セッションの「戦略」は、コーチ自身が持っている考えや答えに相手を導くためのものではないということに注意する必要があります。

 具体的には、セッションにおいて、何に焦点を当てるかがセッションの「戦略」だと言えるでしょう。相手の特性や置かれている状況により、焦点を当てるべきポイントは異なってきます。

 たとえば、相手のモチベーションが下がってしまっている時は、ゴール達成時のイメージを描くことに焦点を当て、モチベーションを上げていくことを目指すとよいかも知れません。また、ストレスや不満を抱えている場合には、ゴール達成時のイメージを描くことに先立ち、とにかく不満を吐き出させ、「認める」「聴く」といったスキルを用い、しっかりと相手の気持ち受け止めていくことが大切になるでしょう。とにかく話に耳を傾けることを徹底するというのも、立派なセッションの戦略です。

 相手の頭の中が混乱しているような場合は、現状把握に焦点を当てる戦略が考えられます。現在、何がどうなっているのかを、的確な質問により、解きほぐしていくことに集中します。そうすることで、誤解や思い込みを解消したり、大きな「気づき」を得ることができたりもします。

 上記はいずれも、状況に応じて焦点を当てていくことが求められるので、随時変えていくことが大切です。コーチに求められるのは、その状況を見極め、どのような戦略、すなわち何に焦点を当ててセッションを運営していくのか、明確な意図を持つことです。

 もう一つ、重要な考え方として、コーチは相手に「戦略」を押しつけるものではないということがあります。どこに焦点を当てるべきか、コーチとして考える必要はありますが、相手としても、どこに焦点を当ててセッションを進めて欲しいという要望があったりします。双方の思惑が異なれば、当然、セッションが噛み合わなくなってしまいます。

 そのような状況を避けるために、コーチは相手に、率直にセッションをどのように運営して欲しいかを尋ねてしまうのは、有効な方法です。どこに焦点を当ててセッションを進めて欲しいか、率直に聞けばよいのです。

 たとえば先ほど、「ゴール達成のイメージを描く」「不満を吐き出す」「現状を正確に把握する」という焦点の当て方をご紹介したが、これら3つは、戦略の選択肢となり得ます。状況を踏まえ、どれでセッションを進めるかをコーチが決めてもよいですが、どの方向でセッションを進めたいかを相手に尋ねれば、より確実です。

 私の経験する限りでは、相手に尋ね、意思を確認しつつセッションを進めていけば、まず大きくはずすことはありません。逆に、コーチ側の思い込みや先入観で戦略を推し進めてしまうと、セッションの最後の方になって、「実はもっと別のことを話したかった」と言われてしまったりします。言ってくれるだけましであり、その機会がなければ、コーチへの信頼感が損なわれてしまうのは避けられません。

 コーチングの基本は、相手(クライアント)が主役だということです。コーチの満足のためではなく、クライアントの満足のために、セッションは行なわれます。クライアントの可能性を100%信じると共に、その意思を最大限に尊重することこそがコーチングの基本であり、それは「コーチングマインド」とも呼ばれます。

 コーチングは「コミュニケーションスキルの一つ」と定義されることから、「言葉のテクニック」と誤解される面が多いのが事実です。しかし、コミュニケーションには、言葉だけではなく、人と人との全人格的な関わりという要素が少なからずあります。コーチングを学び、実践していくことにより、自己基盤(人間力)や、コーチングマインドといった要素の大切を、より深く理解することができるはずです。それがコーチングに関わることの醍醐味であり、多くの人たちを魅了しているのです。

コーチングのテーマを決める
2008年9月01日

コーチングセッションのテーマは、本来、クライアント側が決めるものです。したがって、何をテーマとしようと、クライアントの自由だと言えるでしょう。


とは言えやはり、コーチングに適したテーマというものがあります。特に、お金を払ってプロコーチを雇う場合は、その投資に十分見合うだけのリターンを得られるようなテーマを選びたいものです。職場で上司・部下の間柄でセッションを行なうにしても、貴重な時間を費やすのですから、実り多いものにしたいですね。


もちろん、セッション技術の巧拙により費用対効果も異なりますが、それ以前に、テーマ設定を間違えないことが、前提として大切です。


取り組むべきテーマを設定する際、よく使われるのが「重要度」と「緊急度」の二軸による判定基準です。費用対効果、そして、より高い成果を期待していることを考えると、当然のことながら、「重要度」の高いものがセッションテーマとしてふさわしいでしょう。では、「緊急度」については、どうでしょうか。


たとえば、翌日に大事な営業プレゼンをしなければならないとします。どのようにそのプレゼンを行なうかは、重要かつ緊急のセッションテーマとなるでしょう。案件が契約に至るかどうかを左右するのですから、費用対効果は高いし、より高い成果を求めるのなら、ぜひともコーチの助けを得たいところです。とは言え、対応としては、かなり場当たり的ですし、本当にコーチの助けが必要なのか、疑問です。


コーチングの定義を振り返ってみましょう。コーチングは「パフォーマンスを向上させるために対象者を勇気づけ、質問によって気付きを引き出し、本人の自発的行動を促進させるコミュニケーション技術」と定義されます。「翌日の営業プレゼン準備」という行動は、コーチがいてもいなくても、「自発的行動」のはずです。コーチがいなければ、それをしないのでしょうか。そのようなことは、あり得ません。つまり、コーチの助けがなくてもできる行動であり、コーチングのその部分の定義からは、はずれると言えます。


では、「勇気づけ」や「気付きを引き出す」という点では、どうでしょうか。確かに、翌日のプレゼンを前に「勇気づけ」られるという点では、コーチとの会話は役立つでしょう。セッションの中で、「気付き」が引き出されるかも知れません。ですが、「翌日の営業プレゼンでの成功」に、直接的に結びつくかどうかは疑問です。その「気付き」の価値が高いにしても、位置づけとしては「副産物」でしょう。


あるいは、セッションの中で、プレゼンにあたっての妙案が生まれる可能性もありあす。とは言え、それが引き出されるかどうかは、全く保証の限りではありません。そもそも、妙案などは存在しないことの方が、はるかに多いのです。たまたま引き出されなかったとしたら、コーチングは役に立たないというレッテルが貼られるのでしょうか。


「重要度」が高いという点についても、疑問符をつけざるを得ません。いくら金額が大きくとも、たった一つの案件です。一案件をどうするかということよりも、案件がどんどん生まれていくようなマーケティングの仕組みづくりをすることの方が、はるかに重要ではないでしょうか。そう考えると、このテーマの重要度は、相対的には低いと言えます。


「翌日の営業プレゼン準備」をする際に必要なサポートがあるとすれば、それはコーチングではなく、コンサルティングでしょう。そのように緊急度が高いものは、コーチではなく、具体的な「答え」を持つ専門家から、知恵を拝借する方が適しています。上司として部下に接する場合も、そのように緊急度が高いものについては、コーチングではなく、ティーチング(教える)で接した方がよいでしょう。火災が起きた時のような場面を想像してみてください。部下に対して「どうしたらいいと思う?」などと尋ねるでしょうか。大声で「逃げろ!」と命令すべきなのです。


このように、セッションのテーマを選ぶなら、「重要」であって、なおかつ「緊急でない」ものにすべきです。「緊急でないもの」こそ、実はコーチのサポートを得るのに非常に適しています。なぜなら、そのような「緊急でない」ものは、どうしてもついつい、先送りになってしまうからです。


例として挙げた「翌日の営業プレゼン準備」というテーマなど、前日ギリギリまでかかってしまっていることからみて、その最たるものでしょう。このテーマでセッションをするのであれば、もっと事前から取り組んでいるべきなのです。


部下が抱える、「重要」であるが「緊急でない」課題として、どのようなものがあるでしょうか。早速、それをセッションのテーマとして、コーチングをしてみてはいかがですか?