水平的成長×垂直的成長を『対話』で育てる

(「なぜ、部下とうまくいかないのか」著:加藤洋平)
本や研修で知識を増やし、マネジメントの型も学んだ。にもかかわらず、部下の主体性が上がらない、1on1が業務確認で終わる、チームが思うように動かない。そんなとき、必要なのは「学びの量」を増やすことではなく、学びが届く"土台"を変えることかもしれません。
その土台とは、リーダー自身のものの見方・判断軸です。
そして、その土台を更新していくうえで強力に働くのが、コーチング(対話と問い)です。
この記事では、リーダーの成長を「水平」と「垂直」の2つの視点で整理しながら、コーチングと結びつけて実践のヒントをお伝えします。
「学んでいるのに変わらない」原因は"スキル不足"だけではない
部下との関係がこじれるとき、私たちはつい「言い方が悪かった」「もっと上手なフィードバックを学ばないと」と、スキルの不足に理由を求めがちです。もちろんスキルは大切です。
ただ、同じスキルでも、リーダーが部下をどう見ているかによって"効き方"が変わります。
たとえば「部下はまだ未熟だ」という前提で質問すると、質問は"詰問"に聞こえます。
一方で「部下には考える力がある」という前提で質問すると、質問は"信頼"として届きます。
違いを生むのは言い回しより先にある、リーダーの前提(ものの見方)です。
水平的成長:できることを増やす(コーチングの技法もここに入る)
水平的成長とは、知識やスキル、経験を広げて「できること」を増やす成長です。傾聴、質問、承認、フィードバック、1on1の進め方----これらのコーチング技法を学ぶことも、水平的成長の一つです。
水平的成長が進むと、部下との対話の"型"が増えます。
たとえば、すぐに答えを言う代わりに問いを返す、結論の前に目的を確認する、相手の言葉を要約して認識をそろえる。こうした技法は現場で確実に役立ちます。
ただし、型は使い方を誤ると逆効果にもなります。
質問を増やしたのに部下が黙る、承認しているつもりなのに響かない----それは「技法」ではなく、その下にある"視点"が古いままなのかもしれません。
垂直的成長:ものの見方を深める(ここにコーチングの本領がある)
垂直的成長とは、知識やスキルの土台となる「ものの見方」「判断の前提」「他者理解の枠組み」そのものが成熟していく成長です。同じ出来事でも、見える景色が変わる。だから選ぶ言葉や態度が変わり、結果としてチームが変わります。
たとえば、部下が提案を持ってこないとき。
「やる気がない」と見るのか、「失敗を恐れている」と見るのか、「目的が共有されていない」と見るのか。
どれを"真実"として扱うかで、次の一手がまったく変わります。
垂直的成長が起きると、リーダーは「正しさの押し付け」から「可能性の探索」へ移ります。
ここで役立つのが、コーチングの姿勢と問いです。
コーチングは"部下を変える技術"である前に、"自分を更新する対話"
コーチングは部下の主体性を引き出すだけでなく、リーダー自身の前提を揺らし、更新するための対話でもあります。鍵は「答えを出す」より先に、「問いで状況を再定義する」ことです。
たとえば、部下の進捗が遅れているとき、すぐに指示を出す前にこう問う。
「いま一番の障害は何?」「どこまで進んでいて、何が止めている?」「私にできる支援はある?」
これらの問いは、部下の行動を促すだけでなく、リーダー側の"決めつけ"を減らします。決めつけが減ると、状況理解が深まり、打ち手の質が上がります。
コーチングが効くのは、質問が上手いからだけではありません。
相手の可能性を信じて聴くという姿勢が、問いの意味を変えるからです。
リーダーの現場での「コーチングの使いどころ」
現場では、常にコーチングだけで進められるわけではありません。緊急時や安全・品質に関わる局面では、指示や判断が必要です。
一方で、部下の成長や主体性を引き出したい局面では、コーチングが力を発揮します。
目安はシンプルです。
「正確さが最優先の仕事」には指示を多めに。
「考える力を育てたい仕事」には問いを多めに。
問いが増えると、部下は"考える習慣"を取り戻します。
考える習慣が育つと、報告の質が変わり、提案が増え、チームは自走し始めます。
今日からできる、コーチングと成長の質をつなぐ一歩
垂直的成長は、壮大な学びよりも、小さな対話の積み重ねで進みます。まずは次のどれか一つだけでも試してみてください。
・1on1の冒頭で「今日は何を持ち帰れたら良い?」と目的を確認する
・相手の言葉のあとに、すぐ助言せず「もう少し詳しく聞かせて」と一度深掘る
・結論を急ぐ場面で「いま私が前提にしていることは何だろう?」と自分に問い直す
これだけでも、対話の空気が変わり、部下の反応が変わることがあります。
変化が起きたとき、リーダーの中でも"見え方"が少し変わっているはずです。
そこが、成長の質が動いたサインです。
まとめ:水平(技法)と垂直(視点)を、コーチングでつなぐ
学びを増やすことは大切です。ただ、学びを現場で活かすには、リーダー自身のものの見方や判断軸が更新されている必要があります。
コーチングは、技法としての「水平的成長」に役立つだけでなく、対話としての「垂直的成長」を促し、リーダーの関わり方そのものをアップデートします。
部下やチームが変わらないと感じたときこそ、問いを変え、聴き方を変え、そして自分の前提を見直してみる。
その小さな一歩が、チームの変化につながっていきます。
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まずは一度、気軽にのぞいてみてください。