Coach Interview - 神谷 香 コーチ(後編)

「取り組みながら待つ」という、自分の人生を体験する貴重な時間

 コーチ、心理カウンセラーとして、また、セッション見学会のファシリテーターや講座の講師として活躍中の神谷香コーチに、会社員時代に人の悩みを聴き続けて感じたことから始まったという対人支援の仕事への想いについてうかがいました。
(聞き手:山上 晴美コーチ)

インタビュー

自分に時間のスパンを許しを

 当時は自分のキャリアにも自信がなくて。今思えばもっと自分に寛容というか、結果が出るのは今日明日じゃなくて10年後とかでもありうるじゃないですか。それこそガーデニングの世界じゃないけど。自分にそういう時間のスパンを許していたら、あそこで頑張っていられたと思う。辞めたことを後悔するのじゃないけど、自信のなさのせいで、花開く前にやめちゃって、結果遠回りさせてしまうんです。それはみんなもそうかもしれないかなって思うようになってからかな。派遣の方々もいろいろな人生を抱えている人が多くて、悩んだり夢を追いかけたり事情を抱えていたりして、一社にずっと勤めるよりも転々と変わる方が多いんです。もっと自分を信じて花が開くのを待つことができたら、違った選択もできるかなと思いながら聴くことが多かったんです。ストレスを抱えている目の前の人たちをなんとかしたいと思った。長いスパンで考えられて、もっと生きがいを感じられるようになれたらって。コーチング学んでからそういうふうに考えられるようになったんですね。6年いた間に大勢と接してそう感じたことが大きかったですね。

ーー 臨床心理士の資格のために、社会人大学に入学して学んだそうですが、ある程度キャリアを積んでから再び大学で学ぶというのは、いろいろな意味でハードではなかったでしょうか。

 これやらないと死ねないなって気持ちでした。ハードルはいくつかあったけれど、やらないと悔いが残るって思ったんです。人が悩んで苦しんでいることにすごく関心があって。それは自分のテーマにも通じるんですが、実際的な問題としては、コーチングを学んで人と関わるようになっても、心理のこと知らないで人の感情を扱っていいのかって思うようになったんです。もっと学術的なバックグランドを知りたくて調べていたら、もしかしたらコーチングを臨床心理学の分野で勉強するってのも可能なんじゃないかって手応えがあったんです。その分野では当時国家資格はなかったけれど、スクールカウンセラーや少年院でのカウンセリングとか、精神科のクリニックでの心理検査とか。でも、私はコーチング業界に臨床心理学を持ち込みたかった。コーチング、産業カウンセリング、臨床心理学ときて、もっと踏み込みたいって気持ちで進んできました。

ーー 取得して、セッションにどんなことがおきていますか。

 カウンセリングに対して抵抗感があった人が、コーチングを入り口にして入りやすくなったみたいです。自分はカウンセリングの領域ではなくてコーチングなんだと思いたかった人も。別に病んでないから、後押しさえしてもらえれば行動できるって。「カウンセリングは病んでいる人にというわけではないですよ」と言っています。「それなら、カウンセリングで内面を整えて、それからコーチングした方がいいですね」って、すんなり納得される方が多いです。

インタビュー

悩む力、留まる力、向き合う力

ーー 病んでいるかどうかは自分ではわからないけれど、抱えているものを本当に解決したいなら心の深い部分まで見ることになりますね。

 いろいろなカウンセラーのやり方があると思いますが、私の定義としては、病んでるとか病んでないとかではなくて自分の内面を見つめる作業。感情とか思考とか自分の内面を見つめること。外に向かって行動するコーチング、感じたり考えたりするのはカウンセリングが得意だと思うんです。健康な人も内面を見つめるし。そういうふうに説明しています。そうすると「自分はカウンセリングです」って納得してくれるんです。価値観とか人生観とかそういうものを整えてから、自分のことをよく知るってことです。そうしないと偽の目標に向かっちゃう。

ーー クライアントと一緒に体験した印象深い出来事を挙げるとしたらどんなことがありますか?

 目標が達成できたとかはもちろんですが、クライアントと同じ感覚を分け合ったとても貴重な体験があります。それこそテキストに書いてあるようなベンチにかけてという感覚があったときですね。あるときのスカイプセッションですが、苦しみが底から湧き上がるっていうか、相手の痛みを同じレベルで分け合うというか。それが腹の底から体感できたことがあります。そんなときが、対人支援の奥深さを体験した瞬間だったと思います。華々しくこんな成果が出ましたという以上に、それを誇りに思っています。貴重な体験でした。

ーー 今の活動をさらに発展させていくとしたらどんなことが考えられますか?

 今、コーチングの黎明期が過ぎて、その良さが伝わってない部分を心理学の素養を持つことで解決されることって結構あるんじゃないかと思ってるんです。そこの知識を伝えて、コーチングはもっと信頼できるものだってことを知ってほしい。そういう専門家集団を作りたいと思っています。オーソドックスな心理学の基礎を共有するコーチですね。 今は、「プロコーチの会」というのを不定期にやっていて、コーチングにまつわる悩みについて、それぞれが持ってきたものを真剣に考える場をつくっています。セミナーでもないお茶会です。志を持ってる人たちと一緒に磨き合える会。考えや悩みを共有できる集まりです。

ーー 新人コーチに伝えたいことはありますか?

 コーチに限らず対人支援職に必要なものってグレーな状態に耐える力だと思うんです。プロとしてやると決めて迷いが生じたら、それを養う時間があってもいいのです。何者でもない迷いの時間ですね。そこに留まる力というか。何かに飛びついちゃうって簡単なんです。簡単な方に行きたいのをぐっとこらえて自分は何者なんだって。その悩む力って結局向き合う力だし、向き合うってのは外に対しても自分に対しても忍耐なんです。と言っても我慢ではなくてブレイクスルーするまで取り組み続けるって意味です。その力はクライアントの支援に絶対役立つ。もし迷うようなことがあればそれは貴重な時間です。行動することだけがいいのではなくて、行動によって逃げてる部分もあるから。セミナージプシーとか、私もあったけれど。迷う時間は歯がゆいし焦るしじれったいし苦しい。でもそれリアルな生身の自分の人生の一部として体験することにすごい価値がある。だから何でも簡単には解決しないんです。大いに迷って悩んでください。

ーー 対人支援という仕事に全力で向かい、最善を尽くしている神谷さんの想いの深さがわかりました。ありがとうございました。

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Profile
神谷 香
コーチ
GCS認定プロフェッショナルコーチ
公認心理師
臨床心理士
産業カウンセラー
企業人事、人材会社営業マネージャー兼子会社取締役などを経て2010年にフリーのコーチ・カウンセラーとして独立開業。個人クライアントを中心にコーチングとカウンセリング、プロコーチへのコンサルテーションを提供している他、クリニックでのカウンセリングや心理に関心の高い人向けのワークショップやセミナーを不定期で開催中。
臨床心理士としての経験から、カウンセリングは『コーチングを最大限に活用するための土台づくりに効果的』と考え、クライアントの状態に合わせて使い分けたセッションを提供している。
『生きがいのある人生は心の土台づくりから』を指針に、コーチングを始める前に心の土台づくりのカウンセリングと心が元気なうちの早めのカウンセリングを提案している。
ホームページ セッションルーム アトリエ南風
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