選手が伸びる指導とは?スポーツから考えるコーチングの可能性

銀座コーチングスクール(GCS)広報チーム 赤川美佐子です。
先日、高校野球を見ていて、「コーチにも本当にいろいろなタイプがいるな」と感じました。
ミスをした選手に大きな声で声をかけるコーチ。
ベンチから細かく指示を出すコーチ。
一方で、失敗した選手にも明るく声をかけるコーチ。
同じスポーツでも、指導者によって選手との関わり方は様々です。
そこで改めて考えたのが、スポーツにおける「コーチ」と、私たちが普段行っている「コーチング」のコーチとの違いです。
◆スポーツのコーチとコーチングの違い
スポーツコーチには、選手の競技力を高めるために、専門的な知識や経験をもとに技術を教えたり、戦術を伝えたりする役割があります。
試合中であれば、
「前に出よう!」
「切り替えよう!」
「次はこうしよう!」
と、その場で明確な指示を出すことも必要です。
つまり、スポーツのコーチには、「教える」「指示する」役割があります。
一方、私たちが行っているコーチングでは、基本的にコーチが答えを教えるのではなく、対話を通して相手の中にある考えや可能性を引き出していきます。
「あなたはどうしたい?」
「何がうまくいった?」
「次はどうしてみたい?」
と問いかけながら、相手自身が考え、選択し、
行動していくことを支援します。
つまり、スポーツコーチが「教える」役割も担うのに対して、コーチングのコーチは「引き出す」ことを中心に関わるのです。
同じ「コーチ」でも、役割には違いがあります。
ただ、実際のスポーツ指導を見ていると、
この二つには重なる部分もあるように感じます。
◆栗山英樹監督の指導に見る「アスリートセンタード・コーチング」
その一例として、興味深い研究があります。
2025年、日本体育・スポーツ・健康学会第75回大会で、日本体育大学大学院の佐藤直央氏と日本体育大学の佐良土茂樹氏による「栗山英樹監督のコーチングにみるアスリートセンタードと4つのコーチングアプローチの統合的活用」という研究が発表されました。
栗山英樹氏といえば、北海道日本ハムファイターズを日本一へ導き、侍ジャパンの監督として2023年のWBCでも世界一を達成した指導者です。
この研究が興味深いのは、栗山監督の采配そのものではなく、「選手とどのように関わっていたのか」に注目しているところです。
研究では、栗山氏の著書『監督の財産』『栗山ノート』に書かれた言動や考え方を分析しています。
その軸となっているのが「アスリートセンタード・コーチング」です。
これは、指導者がすべてを決めて選手を動かすのではなく、
選手を中心に置き、主体性や人間的な成長を大切にしていく考え方です。
そして研究では、コーチの関わり方を、
「指示・提案・質問・委譲」
という4つのアプローチから捉えています。
例えば、「指示」は、コーチが「こうする」と明確に方向を示す関わりです。
「提案」では、「こういう方法もある」と選択肢を提示し、最終的な判断には選手の意思が入ります。
さらに「質問」になると、「自分ではどう思う?」「どうしたい?」と、答えそのものを選手に考えてもらいます。
そして「委譲」では、判断そのものを選手に任せます。
つまり、
指示 → 提案 → 質問 → 委譲
と進むにつれて、指導者が決める割合が小さくなり、選手自身が考え、決める割合が大きくなっていきます。
研究では、栗山監督の実践について、単に選手に任せていたのではなく、この4つを状況に応じて使い分けていたことが考察されています。
例えば、経験の少ない選手や、明確な方向性を示す必要がある場面では、指示や提案が必要になる。
一方で、選手が自分で考えられる場面では質問を使い、さらに選手自身に判断できる力があれば任せていく。
ここが、とても興味深いところです。
選手主体だからといって、何でも選手に任せるわけではない。
逆に、指導者だからといって、何でも自分で決めるわけでもない。
目の前の選手や状況を見ながら、どこまで教えるのか、どこから考えてもらうのかを変えていく。
また研究では、栗山監督の実践について、選手の競技力だけではなく、主体性や人間的な成長を重視する姿勢との関連からも考察されています。
目の前の試合で結果を出させることだけではなく、選手自身が考え、判断できるようになることまで含めて「育てる」。
この視点は、私たちが学ぶコーチングにも通じる部分があるように感じます。
◆何でも質問すれば「コーチング」ではない
コーチングというと、
「質問すること」
「答えを教えないこと」
と思われることがあります。
しかし、ただ質問をすればコーチングになるわけではありません。
相手の話を聴き、相手の状態を見ながら、その人が自分で考え、気づき、行動していくことを支援する。
人を育てる場面でも同じです。
知らないことは教える。
必要なことは伝える。
本人が考えられることは問いかける。
そして、任せられることは任せる。
特に経験がある人ほど、
「こうすればいい」
「次はこれをやって」
と答えを伝えた方が早いものです。
でも、時には、
「あなたはどう思う?」
「次はどうしてみたい?」
と問いかけてみる。
自分で考え、自分の言葉で答えを出した経験は、その人自身の力になっていきます。
◆怒るコーチ、笑うコーチを見て思うこと
高校野球を見ていると、怒るコーチもいれば、
笑顔で選手と接するコーチもいます。
けれど、表情や声の大きさだけで、
その指導が良いかどうかは分かりません。
厳しく伝えた方が響く選手もいるでしょう。
具体的に教えた方が伸びる時期もあります。
反対に、自分で考える時間を与えたり、
思い切って任せたりすることで成長する選手もいるかもしれません。
大切なのは、
「自分はこういう指導者だから」ではなく、「今、この人にはどんな関わりが必要なのか」
という視点ではないでしょうか。
これはスポーツだけの話ではありません。
部下を育てる上司。
後輩を指導する先輩。
子どもと関わる親。
人を育てる様々な場面に共通することだと思います。
◆人を「動かす」から、人の力を「引き出す」へ
スポーツのコーチと、コーチングのコーチは同じものではありません。
それでも、
相手の話を聴く。
問いかける。
本人に考えてもらう。
そして、ときには相手を信じて任せる。
こうした関わり方には共通する部分があります。
目の前の人をその瞬間に動かすだけではなく、
その人が自分で考え、選び、行動できるようになることまで考えて関わる。
高校野球を見ながら、スポーツの世界にもコーチングの考え方を活かせる場面は、まだまだあるのではないかと感じました。
コーチングに興味がある方はぜひ無料体験講座(説明会)へ
【参考文献】
佐藤直央・佐良土茂樹(2025)
「栗山英樹監督のコーチングにみるアスリートセンタードと4つのコーチングアプローチの統合的活用」
日本体育・スポーツ・健康学会 第75回大会
J-STAGE