Coach Interview - 岩本 美恵子 コーチ（後編）

　行政書士として開業し、コーチングを活用されている岩本美恵子さんにどのように取り入れているのか、またそのきっかけなどについてお話をうかがいました。
（聞き手：山上 晴美コーチ）

ーー それで早速ワークショップを開催したのですね。

　はい。題名もそのまま「モヤモヤ解消セミナー」で、いくつかの質問をみんなでシェアしたりしました。それがすごくいいということでリクエストをいただいたので何回か開催したのですが、ある日コワーキングスペースを借りてやった時に、たまたま横にいらした男性が「なんかコーチングぽいことをやってるけど資格は持ってるの？」って聞いてきたんです。「自分はどこどこで資格を取ったんだけれどもあなたは？」って。なんだか「資格もないのに治療しているもぐりの医者」みたいな言われ方をしたのがとても嫌でした。それならちゃんと資格を取ろうと検索したら対面でやっている金沢校がヒットしたんです。それが２０１２年のことです。

ーー その方の思いがけない質問が、本格的にコーチングを学ぶきっかけになったのですね。

　そうですね。2012年に認定コーチになりました。資格を取ってすぐに活動したいと思っていたのでそのままの流れでコーチとして活動を始めました。でも実はクラスに行っているときから自分のコーチングに自信がなかったんです。認定コーチになれば何かが変わると思って続けていましたが、「私コーチです」って名乗る自信がなかった。練習もしましたけれどやはり自信がもてなくて。それで、さらに国際的な資格を取れば自信がわくかもしれないと思って国際コーチング連盟の資格を目指しました。

ーーやってみていかがでしたか。

　コーチングのいろいろな仕組みを知りながら練習すると「だからうまくいかないとか、だからうまくいくとか」ということが理論づけられます。出たとこ勝負のコーチングではなくて再現性がある安定したコーチングセッションができるようになったと思います。
　ベースとなるICFのコアコンピテンシーを再現するセッションとはどういうものだろうかという問いを持ちながら練習を続けたのがよかったのかなと思います。コアコンピテンシーを軸にそれに近づくための練習をして自信につながりました。大まかな項目で言うと「合意を取り交わす」というところです。セッションはコーチが引っ張るものでもクライアントが一方的にするものでもなく2人でやりながら進めるというところですごく肩の荷が下りました。もちろんコーチは戦略を持ってするのですが、どんな時間にするかというのも一緒に創っていくというところです。以前はどこで終わったらいいのかわからなくてテーマが解決するまで延々と話してしまうこともありましたが、迷走する時間がなくなりました。

ーーパーソナルコーチング以外に行政書士の仕事にどんなふうに活かされているのですか。

　どんな書類にするのかお客さまの希望を聞くのですが、コーチングを学ぶ前は、何回かやり直しをして「こういうことじゃなくて」と言われたこともあります。ある社長からは、「あなたには私の想いが通じなくて残念だ」と言われてしまいました。
　その社長は話が上手な方ではないので、その時は「いえいえあなたの伝え方が悪いんだ」と心の中で思っていました。「じゃあこういうことですね」って言うと「そうだ」って。何度もそういうやり取りがあって最後にそう言われてしまいましたから。でも、家族からも「理解してもらえない」ってことでけんかになったりとかもしましたし、もしかしたら相手の言い方が悪いんじゃなくて私の聴き方が問題なのかなって。発している言葉は大事ですが、その背景や心情を想像しながら聴くということも大事です。その社長の時は、もしかしたら男性の方がいいのかもしれないと思って他の方を紹介したんですけれども、もしコーチングを知っていたらもっと相手の思いを汲み取ることができて、別の関係性が築けたかもしれません。

ーーショックな言葉を投げられたように感じますが、起きたことに意味があるというとらえ方もできますね。

　本当です。後に、やりたいことがわからないというルートでコーチングに出会いましたが、そういう出来事が何回かあってからも「私が変えられる所はどこだろう」と、自分への問いが前向きに変わって来たと思います。「なんであんな言い方をするのだろうとかイヤな奴だ」とかではなくて、「私にもっと違う関わり方があったとしたら」とか、そういう自分への問いかけがコーチングのようになったのだと思います。

　今の仕事で離婚相談もあるのですが、書類の作成ですから、お客さまの方向性が決まったらまた来ていただいたり、離婚カウンセラーを紹介したりしていました。でも相談に来られる方は最初はそういうことはわからないので、「ここまで話したんだからとりあえず聞いて欲しい」というような感じでした。コーチングを学んでからは、初めからそういう相談にも関われるようになりました。

　そのように、今の仕事に活かすということももちろんありますし、離婚協議書作成の依頼を受けて、離婚したクライアントさんからその後「このままだと私再婚ができなさそうなので、再婚に向けてコーチングをしてほしい」と言われたことがあります。婚活コーチみたいな感じですが、しばらくしてから「再婚できました」という連絡をもらいました。

　書類を作成し離婚はできたというところで行政書士の仕事としては終わりなんですけれども、その先の未来を一緒に描くことが同時にできたのがすごくうれしいです。

ーー士業の方々がコーチングができるというのはとても有意義だと感じます。他に変化したことがありましたら。

　母との間で、以前は感情のぶつけ合いがあったと思いますが父の介護をきっかけに何かしらの可能性を見つけられる会話ができるようになりました。現状を見つめるだけでなく出口を見つける会話です。母は感情的にモノを言う人なので、言い返すと収拾がつかなくなってしまうからこちらはあまり反論をしなかったのです。私の中では母は反面教師であんなふうになりたくないと思いながら育って来たのですが、コーチングを学んでからはそれなりにいいところにも視点を向けられるようになりました。コーチングは感情がクローズアップされますよね。それに気づいてからはビジネスチックに事柄だけにフォーカスすることが苦手になって来て、人間らしい関わりというのは感情抜きには成り立たないと思うようになりました。母のように正直に言うのは自然でいいのかなとも思うようになって、コーチングからいろいろなことを教わりました。

ーー 今後手掛けていきたいことなどありますか。

　「仕事だけじゃなくて人生を豊かにするにはどうしたらいいだろう」というワークショップや個人セッションができたらいいと思います。生き方とか人としてのあり方をテーマに、何カ月かに渡ってサポートできたらと思います。そもそも私がコーチングに出会ったのは自分がわからなかったことでしたので。

ーー みんなが自分らしい生き方を見つけて豊かな人生をおくるためにということですね。

　まさにそうだと思います。何のために生きているの？って聞かれたときに、これのためって答えられる。そういう生き方ができるとストレスなく生きられる。何のためって言うのは大きなことでなくていいと思います。それで「自己基盤」を調えるというプログラムをやろうと思います。身の回りの環境だったり自分の価値を満たすものだったりと、生活に紐づいたワークショップです。

ーー素敵です。最後にコーチングを知ってからの岩本さんご自身の変化はどんなことですか。

　不平不満が少なくなって、起こったことはすべて価値があるととらえられるようになったことです。マイナスと思えることが起きたとしても、極端に言うと「今神様は何を教えようとしているのだろう」ということですね。他の人への影響というよりも自分自身がすごく楽になりました。

　コーチングのよさは、何も道具がないのにできるところだと思います。使うのは言葉だけ。初めはわからなかったのに対話を通してはっきりしてきて、自分の中に答えがあったというのがすごいと思います。言葉を介した無限の可能性だと思います。 人生最悪と思った日でも何かしらの光を見つけて過ごせるのがコーチングのすごさだと思います。

ーー本当ですね。共感します。素敵なお話をたくさん、ありがとうございました。